ご無沙汰しております。
なんだかんだと忙しい日々を送っています。
一年前にも執筆していた中日新聞の「味の提言」を改めて豆腐の話として10回連載を開始します。
11月5日が、スタートでしたので、読み損ねた人のために原稿を載せておきますね。
◎豆腐の話①たかが豆腐、されど豆腐
大体どこの家の冷蔵庫にもある常備品に豆腐があり、日本の食卓のポピュラーな食品の一つです。そんな、何気なく食べている豆腐について、魅力ある一面の「味な提言」をさせていただきます。
豆腐の発明者は、中国前漢時代の准南(わいなん)王・劉安(りゅうあん)のほか、諸説あります。いずれにせよ、中国南部で生まれた伝統食品ということに間違いはありません。よく豆腐に「腐」という漢字が使われていることを間違いだと思われがちですが、中国語で「腐」とは、軟らかくてぶよぶよしたものという意味からもうかがい知れます。
日本には朝鮮半島を経て奈良時代に、遣唐使によって製法が伝えられました。その後、台湾・琉球ルート、朝鮮戦役後の土佐ルートからも伝わりました。当初、貴族や僧侶の高級食材だったものが、江戸時代に庶民の食材として広く食べられるようになり、豆腐を扱った日本初の料理本「豆腐百珍」も江戸時代の発刊です。
豆腐は、大豆と凝固剤というシンプルな原料で作られる食品ですが、その製法は特異で、化学反応を利用していることは意外と知られていません。推測すると「劉安考案説」があるのは不老長寿の新薬開発中にできたもので、すりつぶす、こし取る、混ぜ固めるという工程の特異性は漢方薬の製法に通じるからでしょう。
日本と大陸との製法の違いは、おからを搾るタイミングが、煮る前か後かです。日本式は濃厚な豆乳が得られ、冷ややっこに合う食感にできる煮沸後の圧搾法です。
また、日本では豆腐の凝固剤はにがり(塩化マグネシウム含有物)が一般的ですが、中国ではすまし粉(硫酸カルシウム‖石こう)を使います。これは、原料となる食塩がにがりを多く含む海水塩の日本に対してにがり成分の少ない岩塩であったため入手しやすい石膏を中国では採用したからです。
にがりは、海水から塩の結晶を取った残液で、天然塩は放置するとにがりの潮解性によって空気中の水分を吸って液化します。これを使ったため、江戸時代から全国で自家製豆腐が作れるようになったといわれています。
第二次大戦中、にがりがジュラルミン製造に用いる統制品になり、代用品としてすまし粉が使われるようになりました。凝固反応が遅く、簡単に製造できるので、戦後国内に浸透しました。しかし、うま味が出ないので、あっさりとした食味となり、戦前の味を懐かしむ声も多くありました。
近年は、自然食ブームや技術改良が進み、一部でしか販売されていなかったにがり寄せの豆腐も、一般のスーパーで見かけるようになりました。
千年以上の歴史を持ち、日本で改良されて育てられた豆腐や揚げ、がんも、生揚げなど、お豆腐屋さんに並ぶ食品の良さをお伝えしたいと思います。たかが豆腐、されど豆腐。
いしかわ・のぶる 1963(昭和38)年、刈谷市生まれ。日本大農獣医学部を卒業後、サラリーマンを経て家業の豆腐店を継ぐ。おとうふ工房いしかわ代表取締役の傍ら、高浜市こども食育協議会会長として食育の推進に取り組むほか、高浜市観光協会会長を務める。